2009年 某日

ある日、家に仔猫が迷い込んだ

これと言って代わり映えの無い

どこにでもい る茶トラの雄の仔猫だった

近所の悪ガキ達からは石投げの標的にされ、

最 初はオドオドしていたのだが、

抱き上げると頭をぐいぐい押し付けて「ミニュー」

と鳴いた この時から、 この猫は僕にとってなくてはならない存在になった

家族が寝静まった深夜、仕事から帰宅する僕を目を光らせながらいつも

玄関で待っててくれて、擦り傷だらけになった僕の心を優しく舐めてくれた

それから2年間、猫は僕の傍らにいつもいた

猫が死んだのはある2月の寒い朝

近所の道路で冷たくなっていた

誰の話題にもならない

誰の目にも留まらない

猫の死だった

猫が死んでから僕の心に大きな穴があいた

餌を入れていた空の茶碗

くるまって寝ていた毛布

それらを見る度に穴は疼き、小さく泣き声を上げた

庭の片隅に小さな白い十字架がある

子猫の「キッキ」の墓だ

その上を今日は

3月の風が優しく吹いている

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